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BGMによるマスキング効果

更新日:2019年9月30日

BGMによるマスキング効果

東京情報大学・総合情報学部
西村明教授



マスキングとは

マスキングという言葉を耳にしたことはありますか?辞書には、「覆い隠すこと。包み込むこと。」と書かれています。音の世界にもマスキングという、ある音によって、別の音が聞き取りにくくなる、あるいは聞き取れなくなる現象、つまり音で音を覆い隠す現象があります。
例えば、音楽をちょっと大きめの音量で聴いているときに、電話の呼び出し音が聞こえない場合は、音楽が呼び出し音をマスキングしているといえます。大きい音がマスキング音となって、小さい音を聴き取りにくくする現象を、「マスキング」と呼びます。


マスキングには、このように聴きたい音が聴こえなくなるという、負の側面だけでなく、聞かれたくない音を聞かせない、という正の側面もあります。みなさんの周りにも、聞こえない方がよい、聞き取れない方がよい音はありませんか?例えば、お金や病気の話をしなければならない銀行や病院、薬局などにおいて、会話のプライバシーを守りたいという要望が、近年高まっています。
スペースに余裕のある歯科医院では、診察台の間に衝立を設けることで、治療時の視覚的なプライバシーを守る工夫はされているようですが、声は衝立を回り込んで伝わります。また、待合室や受付といったオープンな空間では、次回の診察日時を決める際に、その会話に含まれるプライバシー情報に敏感な患者さんがいらっしゃるかもしれません。


この問題に対して、マスキングによって会話音を聞き取りにくくする装置が導入されることがあります。この装置は、音声に似た雑音をスピーカーから再生することで、会話音を聞き取りにくくしますが、若干耳障りな音質ではあります。音楽を用いてもマスキング効果を生じさせることができますが、曲ごとに音量感が異なると、効果は下がってしまいます。そこで、音量を一定にした音楽を再生することで、マスキング効果を持続させやすくなります。



歯科医院で発生するタービンドリルの音に対して

さらに歯科医院で嫌われる音は、タービンドリルの甲高い音でしょう。この音の高さは、我々の声よりもずっと高く、鈴虫の鳴き声くらいの高さの音で、かつ音量もかなり大きくなっています。困ったことにドリルが歯を削る際には、頭がい骨も振動させて、空気を伝わらない骨導音としても聞こえるため、単に耳栓などではシャットアウトできないのです。ドリル音をマスキングによって聞こえにくくするには、さらに大きな音を流す必要があり、相当にうるさくなってしまいます。


最近の研究では、ドリル音が音楽の和音の一部として聴こえるように、音を逐一分析して合成再生し、不快さを低減する手法の提案がされていますが、簡単な装置で実現できる訳ではありません。ドリル音を気にしない、という解決法も考えられますが、それができれば患者さんは苦労しませんよね。静かな環境ほど、聞き取らなくてもよい音が気になるように、BGMが流れていることによって、音を気にしにくくなる効果は若干あると思われます。また、音楽には個人の好みがあるのですが、音楽によってある程度気分が変わることは、様々な研究によって明らかになっています。落ち着いたBGMによってリラックスしてもらうことも、大切なのではないでしょうか。

西村明教授

西村 明(にしむら あきら)

東京情報大学・総合情報学部総合情報学科教授。
九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)音響設計学科卒業。
同大学院修了 博士(芸術工学)。
聴覚、オーディオ測定技術、音響情報処理の研究に従事。

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