コラム
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集中力の向上と維持と自律神経のコントロール

公開日:2020年4月21日

集中力の向上と維持と自律神経のコントロール

順天堂大学医学部教授
小林 弘幸教授



“人の状態の良し悪し”を左右する自律神経 それは音楽でコントロール可能か?

仕事の生産性をアップさせるには、労働者の集中力を高めることが大事。脳の構造で言えば、集中しているときに発生しやすい“β波”が出ている状態で、仕事の生産性もアップします。 しかし、β波が継続して出続けると、徐々に脳が麻痺してきて疲労が蓄積するので、過度なアプローチは控えた方がいいのです。そもそも、人間が集中できる時間は約90分と言われているので、β波が継続したあとは、安らいだ時に発生しやすいα波を促すよう、脳に休息時間を与えることが必要です。時間の目安としては、最短でも10~15分程度がいいかと思います。


もしも音楽を使って“仕事の生産性を上げる”のならば、β波を促進させる「集中力を高める楽曲」と、α波を促す「リラックスする楽曲」を交互にオフィスへ流すのがいいのです。


続いて、脳波と心拍数の関係についてですが、“集中力を高める”楽曲を聴いて心拍数が上がればβ波が増加、“リラックスする”楽曲を聴いて心拍数が下がればα波が増えることが実証されています。つまり、この2つは相関関係にあることがうかがえます。ではどんなサウンドが、β波、α波を発生させやすいのか。β波が出やすい音については、実は未知の部分が多いのです。しかし、α波が出やすい音については、ある特徴があります。それはメトロノームのように、一定のリズムを保った曲です。もしも心拍数を下げて落ち着きたいと思ったら、一定のリズムをキープした曲を流すとよいでしょう。


さて、その人の“状態の良し悪し”を左右するのが“自律神経”です。この“自律神経”をよい状態を保つためには、一に睡眠、二に食事です。ほかに付け加えるなら“腸内環境”も大切。朝食時にヨーグルトを食べるなどして腸内環境を整えるのは、自律神経のバランスを取るためにも、理に適っていると言えます。そして、この睡眠や食事と同じくらい影響力を持つのが音環境なのです。



勤務時間内に“集中できる90分間をなるべく多く作ってあげる“という発想が大事

“自律神経”を整えるには、交感神経と副交感神経のバランスが大切ですが、この2つは環境に大きく左右されます。 例えば、喫茶店などに行くとBGMがかかっていますが、自身の琴線に触れる曲が流れると、大抵の人は交感神経が一気に高まります。それまで無意識の状態でいたのに、好きな曲が流れると“意識する状態”に引っ張られる。しかしそれは、ゆったりとした曲を聴けばゆったりとした気分に、アップテンポの曲を聴けば気分が高揚するかと言えば、そうとも言えません。人の感受性には“美意識”が働いているので、スローな曲でも高揚感が高まるケースもあるかと思います。


これらを総合し、音楽を使っていかに集中力を高めるかを考えると、“長時間キープさせる”という発想ではなく、勤務時間内に“集中できる90分間をなるべく多く作ってあげる“という発想が大事になってくるのです。つまり、同じ性質の音楽を流し続けるのではなく、β波を促進させる音楽の次には、α波を促すリラクセーション効果のある音楽も織り交ぜるなどしたプログラム編成がもっとも理想的です。自律神経が働いている無意識の部分で、いかにほどよい緊張感をコントロールできるかが、良いパフォーマンスを発揮するための重要な鍵となります。“好かれちゃいけない”けど“煩わしく思われてもいけない”……そんな楽曲を編成すること、これぞ究極です。


人が乱される因子を考えると、対人関係もあれば、職場環境も当然あります。何らかの要因で人が乱されている環境下においては、働きやすい状況を作り、それをどれだけ維持できるかがポイントです。音楽にはそれに寄与する可能性があるのです。

小林弘幸教授

小林 弘幸(こばやし ひろゆき)

埼玉医科大学短期大学名誉教授。
順天堂大学医学部教授。20年以上におよぶ外科・移植外科、免疫、臓器、神経、水、スポーツ飲料の研究の中で自律神経バランスの重要性に注目した。日本体育協会認定スポーツドクター。



※ 本内容は、会報誌「Sound Design for OFFICE vol.3」に掲載されたものです。

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