研究
研究
オフィスでの長時間労働対策として音楽(BGM)を活用できるか

公開日:2021年12月27日

更新日:2021年12月27日

音楽(BGM)の残業時間削減効果に関する研究

オフィスでの長時間労働対策として音楽(BGM)を活用できるか

長時間労働による健康障害は、週当たり労働時間が長いほど有意に脳梗塞発症リスクが高いこと①、月80時間以上の残業と抑うつ症状との関連性が高いこと②、1日11時間以上働く50歳代男性で急性心筋梗塞のリスクが高いことが明らかとなっています③。これまでに有効性が示されている手段は、労働時間に対する法規制や職場ルールの導入が主であり④、効果的に残業削減できる他の方法の報告は限られていますが、この度、オフィスで音楽(BGM)を活用することによって残業時間削減効果を得られるか、東海大学医学部 立道昌幸教授のチームと共同で研究を行いました。


調査概要

(1)従業員数50名以上、(2)労働時間を客観的に評価できる、(3)IT関連企業の15事業所を対象に、BGMと残業時間の関係について検討しました。BGMの流し方によって5事業所ずつ3パターン(A・B・C)に各事業所を分けて調査しました。パターンAでは終業時刻に定時退社を促すアナウンスとBGMを流し、パターンBではBGMを15時~終業時刻まで流し、パターンCではBGMを始業時刻から終業時刻まで流しました。 また調査期間は、BGMを流す期間と流さない無音の期間をそれぞれ2ヶ月ずつ交互に設定し、合計8ヶ月間としました。
なお、BGMは各事業所の要望をふまえて、「Sound Design for OFFICE」の番組をセレクトしました。


調査スケジュール

結果

各事業所のBGMの有無における4ヶ月間の平均残業時間の削減率を下図に示します。
事業所No.5、6、9、11、13、14の6事業所で残業時間が有意に減少し、減少率はそれぞれ−4.3%、−19.2%、−10.7%、−11.8%、−16.8%、−4.4%でした。パターンAが1事業所、パターンBが2事業所、パターンCが3事業所となりました。しかしパターンBの事業所No.10では、BGMありの場合において、むしろ有意に残業時間が増加しました。


BGMの有無で比較した残業時間の各事業所ごとの増減率

この結果から、終業アナウンスのみや夕方からBGMを流すよりも、1日中BGMを流すほうが残業を削減させる可能性があることが明らかになりました。


監修者からのコメント

立道昌幸教授
東海大学医学部 教授
基盤診療学系衛生学公衆衛生学

産業医科大学医学部卒業。臨床研修後、ソニー株式会社本社専属産業医等。WHO IARC(世界がん研究機構)、昭和大学医学部衛生学助教授を経て、2013年より現職。

<監修>東海大学医学部 立道昌幸教授

今回の研究では、終業時刻を知らせる条件づけ効果と、BGMの変化による時間経過の意識づけを狙って調査をしました。終業アナウンスのみや夕方からBGMを流すパターンよりも、1日中BGMを流したうえでBGMを変化させるほうが、帰宅を促す効果は高いと考えられます。音楽の条件づけ効果よりも、自然な時間の流れを認識させるための動機づけ効果のほうが、効果が大きかったのかもしれません。詳細な効果検証はBGMの内容や労働条件を層別化し、大規模かつ長期的な介入を行う必要がありますが、テンポや音量、ジャンル等を検討したうえでBGMを流すことは、帰宅を促し残業を抑制する効果が期待できる可能性が高いと考えられます。

過去の報告では、BGMと生産性に関連した介入研究が複数報告されており、仕事に没頭できたりストレスの回避に役立ったりするとされています⑤。ひとりで聞くよりも他者との交流の中の方が、音楽はリラックス効果を高めるとした報告もあります⑥ので、職場でのBGM利用は、残業削減以外の効果も期待できると考えられます。

新型コロナウイルス感染症拡大を機に、テレワークとオフィスワークそれぞれに対し、根本的な長時間労働対策の方法を検討する必要があると考えられますが、その中で音楽(BGM)は、身近で取り入れやすいツールです。今後のオフィスワークあるいは、テレワーク時の個人環境における長時間労働防止、快適な職場環境の形成を目指すときの参考としていただければ幸いです。


※本研究は2021年6月に「Environmental and Occupational Health Practice」に論文発表されました。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/eohp/3/1/3_2021-0005-OA/_articleリンクアイコン

① Kivimäki M, Jokela M, Nyberg ST, Singh-Manoux A, Fransson EI, Alfredsson L, Bjorner JB, Borritz M, Burr H, Casini A et al: Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603 838 individuals. The Lancet 2015, 386(10005):1739-1746.

② Tsuno K, Kawachi I, Inoue A, Nakai S, Tanigaki T, Nagatomi H, Kawakami N, Group J: Long working hours and depressive symptoms: moderating effects of gender, socioeconomic status, and job resources. Int Arch Occup Environ Health 2019, 92(5):661-672.

③ Hayashi R, Iso H, Yamagishi K, Yatsuya H, Saito I, Kokubo Y, Eshak ES, Sawada N, Tsugane S, Japan Public Health Center-Based Prospective Study G: Working Hours and Risk of Acute Myocardial Infarction and Stroke Among Middle-Aged Japanese Men- The Japan Public Health Center-Based Prospective Study Cohort II. Circ J 2019, 83(5):1072-1079.

④ Lin S-H, Chou M-Y, Lin R-T: Mediation analysis for new recognition criteria, working hours and overwork-related disease: a nationwide ecological study using 11-year follow-up data in Taiwan. BMJ Open 2019, 9(7):e028973.

⑤ Haake AB. Individual music listening in workplace settings: An exploratory survey of offices in the UK. Musicae Scientiae. 2011; 15(1): 107-29.

⑥ Linnemann A, Strahler J, Nater UM: The stress-reducing effect of music listening varies depending on the social context. Psychoneuroendocrinology 2016, 72:97-105.

おすすめ番組

USEN番組

Concentration ~働く人の集中力UP~

埼玉医科大学短期大学 和合治久名誉教授監修のUSENオリジナル・チャンネル。“モーツァルト効果を取り入れた現代音楽”という新しい発想でつくり上げた機能性と美しさを併せ持つ音楽です。集中力を高める楽曲と、脳を休めたり、癒したりする楽曲を緻密に織り交ぜ、効果の持続力を高めます。



USEN番組

爽やかオフィスのリフレッシュ・タイム

アコースティック楽器が奏でる心地よいフュージョンをお届けします。明るく爽やかな曲調は、コミュニケーションを促進したいリフレッシュ・ルームやランチタイムにおすすめです。爽快なテンポとくせのないアコースティックなサウンドが話しやすい雰囲気をつくり、様々なオフィスで使いやすい万能BGMです。



USEN番組

帰宅を促す音楽

東京藝術大学 音楽環境創造科とUSENとの共同研究によって得られた、終業時におけるオフィスワーカーの心理状態の分析結果を基に制作したUSENオリジナル楽曲による番組です。仕事のはかどり具合や終業時の状況に応じた気分に寄り添う全三楽章の楽曲で、オフィスワーカーの帰宅を促します。





※詳しくは、お客様が加入されている各サービスのホームページをご覧ください。
USEN MUSIC GUIDEリンクアイコン
Sound Design for OFFICEリンクアイコン


【免責事項】
・本ページの実験結果は、各種実験業務の委託により得た分析結果を記載したものです。当社並びに当該分析結果は、何らかの効果を保証しているものではありません。

※本記事について、取材のご依頼や引用、転載をご希望の方は下記よりお問い合わせください。
「お問い合わせ」はこちらリンクアイコン



研究記事一覧はこちらリンクアイコン